不妊カウンセラー・体外受精コーディネーター
特定非営利活動法人 日本不妊カウンセリング学会認定
不妊カウンセラーおよび体外受精コーディネ-ターの役割と活動のあり方についてのガイドライン(2010)
はじめに
日本不妊カウンセリング学会は「広く一般市民を対象に妊娠・出産や不妊に関する適切な情報提供活動を行い、また特に不妊で悩んでいる人々に対して、カップルが最適の不妊治療を選択することができるよう不妊カウンセリング・ケアの発展と普及を図ると共に、不妊カウンセリング・ケアに係わるさまざまな研究や実践を通して、この法人が定め公表する認定基準のもとに不妊カウンセラーや体外受精コーディネーターの養成講座の開催や認定を行い、もって国民の医療・福祉の向上に寄与することを目的」(定款第3条)として設立された特定非営利活動法人(NPO)です。「不妊カウンセリング・ケア」を中心のテーマにした学会であり、職能集団ではありません。
本学会は、本学会が認定する不妊カウンセラーおよび体外受精コーディネーター(以下、認定カウンセラー・コーディネーター)の役割と活動のあり方について、不妊カウンセリング・ケアを中心のテーマにした視点から、以下のように捉えています。認定カウンセラー・コーディネーターはもちろん、本学会会員にあっても、このガイドラインの趣旨を理解し、不妊カップルと社会からの期待に応えられるよう本学会の学術活動、養成講座などはもちろん、日々の活動を通して研鑽を積むことが期待されます。
認定カウンセラー・コーディネーターの役割と活動のあり方
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認定カウンセラー・コーディネーターは、不妊カップルを中心とした、支援ネットワークのかなめとしての役割を果たします。
不妊カップルが抱える問題は複雑です。不妊の原因や治療、挙児への見通しだけではなく、社会や家族のなかでも様々な問題が湧き起こってきます。問題の広がりや深刻さ、相互の関連は、ここのカップルによって異なります。パートナー相互で、問題の捉え方が大きく異なることも少なくありません。
不妊カップルが抱える問題が複雑であるが故に、それを支援する人々の輪も多層的かつ有機的である必要があります。実際、不妊カップルを支援するのは、医師、看護師、薬剤師などの医療職だけではありません。エンブリオロジストも、一般職の方も、行政関係の方も、心理関係の方も、患者さん自身も、針灸や漢方関係の方もいます。認定カウンセラー・コーディネーターは、相互に連絡を取り協力して不妊カップルを支援するだけではなく、他職種、他領域の関係者とも意見交換をしながら協力関係を作る必要があります。様々の職種、領域の認定カウンセラー・コーディネーターがお互いに連絡をとりあえば、より容易にネットワークを作ることができます。
私たちの共通目標は、不妊カップルの支援です。排他的な考え方は、不妊カップルの支援を阻害することはあっても、助けにはなりません。一方、それぞれの業種には資格としての社会的役割や限界、そして到達しなければならないスキルがあります。このことはきちんと把握され、また留意されなければなりません。その上で、必要があれば速やかに、他の職種に意見を求め、助言を依頼し、また不妊カップルを紹介することが求められます。これは自分だけの仕事と、排他的に全てを抱え込まないことが、認定カウンセラー・コーディネーターに求められます。また、認定カウンセラー・コーディネーター以外の本学会会員にも求められます。
こうした相互の協力は、普段から、自分のやり方が正しいかどうか、率直に他職種、他領域の意見を聞くことから形成されます。本学会は必要な交流の場を提供します。 -
認定カウンセラー・コーディネーターは、不妊カップルの気持ちに寄り添います。時には傾聴しながら、時にはただ黙って、時には言葉を返しながら不妊カップル自身が考えを整理することができるようにします。ひとに対する敬意とそしてひとを理解しようとする気持ちも求められます。特に認定カウンセラーは、カウンセリングの基本的なスキルや知識も求められます。
しかし、心理士の資格を持たない認定カウンセラーは、心理療法を行う資格も必要もありません。ほとんどの不妊カップルは、不妊カップルの気持ちに寄り添いながら、適切に情報を提供すれば自ら問題を解決する方向が見いだせます。しかしうつなど、精神科専門医や心理関係者へ紹介する必要があることもあります。その橋渡しを適切かつ迅速に行うことも、また普段からそうしたネットワークをそれぞれに確保しておくことも大切です。本学会は、認定カウンセラー・コーディネーターが、ネットワークをつくるのに必要な情報交換の場を提供します。
不妊カップルが追い詰められる背景には、社会や家族、教育があります。しかし、同時に医療関係者の心ない言葉やゆがんだ情報提供があったことも否定できません。認定カウンセラー・コーディネーターは、不妊カップルが追い詰められていく、こうした現実を変える役割も果たします。それぞれが自分自身の不妊カップルとの接触において、不妊カップルを追い詰めることがなかったかどうか、よく検討すべきです。「そう、とられるとは思ってもいなかった」ような「誤解」は、頻繁に起こっています。それを皆無にはできないまでも、減らすことはできます。傾聴や共感とともに、自分の価値観を押しつけないことや、不妊カップルの理解を常に確認することが求められます。こうした努力は、自分自身だけではなく職域、地域、グループでも、認定カウンセラー・コーディネーターが中心になって進める必要があります。 -
認定カウンセラー・コーディネーターは、不妊カップルに最新の情報を分かりやすく提供します。
認定カウンセラー・コーディネーターの基本的な役割のひとつに、不妊カップルがそれぞれにとって最適の治療法を選択することへの支援があげられます。もちろん、「選択」の中には、治療を受けない、治療を中止することも含まれます。
適切な選択には様々の要件が求められますが、そのひとつは、それぞれの不妊カップルに即した情報提供です。例えば二人とも42歳のカップルには、その年齢の体外受精の成績を、胚移植ができない可能性や自然流産の可能性を含めて、できれば治療周期あたりの生児獲得率で説明すべきです。それぞれの施設やあるいは論文などに発表された、全年齢層での体外受精成績を一括して説明すべきではありません。また、できれば40歳以上のような群分けではなく、42歳に特定した成績が求められます。また、不妊期間や過去の治療回数、不妊原因や過去の治療経緯も加味した方が望ましいでしょう。
また、例えば体外受精を選択するかどうかが問題であったとしても、それ以外の選択肢についても、その予測される結果を説明すべきです。例えば、治療を受けないで自然の性交渉だけで経過をみた場合、卵巣刺激や人工授精を実施した場合などがあります。これらの情報も、年齢別で、不妊期間や過去の治療回数、不妊原因や過去の治療経緯も加味したものが求められます。
情報は、evidence(証拠)に基づいた最新のものが優先されます。もちろん、不妊治療の中にはevidenceがないものもたくさんあります。経験に基づく方法もあります。大切なことは、選択肢をあげメリット、デメリットを説明する際に、それぞれのevidenceとしての重さも説明することが求められることです。
さらに認定カウンセラー・コーディネーターは常に最新の情報を得ることができるよう、本学会に参加したり、養成講座を受講したり、論文を読む、研究課題をもつなど、日常的に研鑽を積むことが求められます。研鑽は、認定資格取得後も繰り返し求められ、資格更新に際してそれが確認されます。
比較対照試験のようなevidenceレベルが高い研究が困難な分野にあっても、evidenceを求めながら、それぞれの領域で可能な研究計画を組むことはできます。本学会はそうした研究成果の発表と意見交換の場になります。
認定コーディネーターにあっては、特に補助生殖技術(ART)に関するわかりやすい説明や最新の情報の収集が求められます。認定コーディネーターは施設の中で活動することがほとんどと考えられますが、他職種との意見交換からカップルが求める情報を把握する必要があります。また、ARTに関する安全性の確保やその説明、ARTに関する自施設でのデータの収集や解析、公開、説明なども求められます。 -
認定カウンセラー・コーディネーターは、「治療方法」の「販売促進員」ではありません。その仕事は、不妊カップルに寄り添い、カップルにとって最適の選択ができるように情報を提供することです。
カップルにとって最適な選択肢は、認定カウンセラー・コーディネーターの価値観から生まれるものではありません。もちろん所属する施設や団体、グループの価値観から生まれるものでもありません。
カップルの選択のなかには、治療中止や他の施設での治療、他の認定カウンセラー・コーディネーターへの相談やevidenceがない「治療」などが含まれることがあります。有害な可能性があったり、evidenceがない「治療」については、そのことをきちんと説明すべきです。しかし、認定カウンセラー・コーディネーターは、カップルがどのような選択をしようが、カップルを支援する気持ちでいることもきちんと伝える必要があります。
認定カウンセラー・コーディネーターは、カップルの気持ちと所属施設の方針が食い違い苦しい立場に追い込まれる可能性もあります。その場合でも、あくまでカップルに寄り添い、所属施設の責任者や他の関係者に、わかりやすくカップルの気持ちを伝え、それが理解されるよう意見交換を図ることが大切です。 -
本学会は、「不妊カウンセリング・ケア」を中心のテーマにした学会であり、職能集団ではないことから、様々の職種の方が本学会に参加しています。職種には国家資格のものも、学会認定資格のものもあります。それぞれそれに沿った、倫理規定があります。それぞれの職種毎に、その倫理規定に従って認定カウンセラー・コーディネーターとしての役割分担と活動が求められます。また、特定の資格を持たない認定カウンセラー・コーディネーターであっても、施設に所属している場合は、その施設での倫理規定に従います。
特定の資格、職種を持たない認定カウンセラー・コーディネーターが、施設に所属せず認定カウンセラー・コーディネーターとして活動する場合は、一般のカウンセリングやコーディネート業務に求められる法的義務に加えて、特に厳格な守秘義務が求められます。また、この形態で認定カウンセラー・コーディネーターとして活動する場合は、本学会へ届け出制とします。 -
認定カウンセラー・コーディネーターは、広く国民に、不妊治療とともに、妊娠や出産に関する正しい情報を提供する役割も果たします。
例えば、意外に知られていないのは、年齢と不妊との関係です。子どもを作ることが、男女ともなだらかな期限付きであることを啓発する必要があります。しばしば、「何歳まで子どもをつくらなくても大丈夫ですか」と聞かれますが、子どもができる可能性が年齢とともにどんどん低くなることを根気強く理解してもらう必要があります。
また、葉酸は、胎児の特定の先天異常の発生を予防するために、妊娠しようとする女性が妊娠前からサプリメントとして1日0.4mgずつ服用するように厚生労働省が勧めているものです。したがって、不妊で悩む女性はすべて服用の対象になります。
その他、喫煙や肥満、やせの問題、性行為感染症など、機会を見つけて啓蒙すべき課題はたくさんあります。若いうちから、できれば学校教育などでも教えておくのが望ましいでしょう。認定カウンセラー・コーディネーターは、そうした場にも活動の範囲を広げるよう努めるのが望ましいと言えます。