NPO法人日本不妊カウンセリング学会は、最適な不妊治療選択の研究・実践することができるよう研究・実践を行っています。

公開講座とは

これから不妊治療を受けてみようとお考えの方、現在不妊治療を受けておられる方にむけて、さまざまな公開講座を開催しております。

公開講座の様子体外受精や顕微授精のような高度生殖医療は、従来の方法では妊娠が不可能であったカップルにそのチャンスを提供することを可能にしました。しかし一方、経済的、心理的負担は大きく、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群のような副作用が起こることもあります。
また、性というプライベートなことがらに医療が介入することになり、卵や精子、胚の提供や代理母といった新たな倫理的問題を投げかけることになりました。

不妊治療に悩む方々に高度生殖医療の現状を知っていただき、さらに専門医や医療従事者と率直に意見を交換し、そのメッセージを全国に拡げることを目的にしています。
参加されたそれぞれのひとが、夫婦とは何か、子どもとは何か、子どもの福祉とは何か、他のひとの権利の尊重、あるいは治療法の選択などについて、自分なりの解答を得ていただきたいと思っています。

公開講座の様子公開講座 受付の様子

これまでの主な講座

公開講座レポートVol.2

2016年10月30日、博多で「性同一障害を学ぶ」と題する勉強会が、本会の後援のもと開かれました。

『性同一障害を学ぶ ~多様な性を支える~』

主催:西日本生殖看護グループ
後援:NPO法人 日本不妊カウンセリング学会

  • プログラム
  • 13:05 講演
    「GIDあれこれ:個々のケースを交えて」
    神経医学博士 縄田秀幸
    筥松病院 診療部長
    日本精神神経学会 性同一障害に関する委員会 委員
    14:00 当事者の経験談
    テーマ:「自分らしく生きる」
    14:30~15:00 質疑応答
  • 内容
  •  2016年10月30日、午後1時から3時までJR博多シティ9階会議室にて西日本生殖看護グループが主催する勉強会「性同一性障害(GID)を学ぶ~多様な性を支える~」を開催しました。県外からも多数参加され63名となりました。


     生まれ持った身体の性別と精神的性別が一致していない性同一性障害者(GID)は国内に、数千人から数万人存在すると言われています。また、同性愛者と合わせると日本の人口の5,2%、学校では40人クラスに2名いるともいわれています。さらに性別変更者は2014年までに5000人を超え、年間800人台と年々増加しています。GIDの当事者は自分の性に悩み、生きづらさや違和感をもちながらも多くは声を上げられず、自己肯定感も低いまま思春期を過ごし、家族・周囲へのカミングアウトも困難なことが多いとされていますが、その実態、実状はまだ多くは知られていません。また最近では性別変更されたカップルが挙示希望のために非配偶者間人工授精について相談に来られるケースも経験することがまれにあります。生殖医療現場をはじめ、一番身近な家庭・学校・地域でどのような支援ができるのか、一緒に考えることを目的に今回の講座を開催いたしました。


     13時5分から精神科医の縄田秀幸先生により「GIDあれこれ:個々のケースを交えて」というテーマでご講演を頂きました。縄田先生は性同一性障害の脳画像解析研究にて医学博士号を取得された医師で、GID研究に尽力された後、現在の筥松病院で診療部長として勤務されています。


     講演は前半にGIDの歴史と変遷、法律、治療計画などの総論、後半では事例を通しての説明がありました。「当事者は幼少期から身体と自分の性に違和を感じ、思春期になると性徴が明らかになるため更に違和感をいだき周囲へ思いを伝えられず社会適応が困難になり、引きこもりや欝病などを発生する場合があります。平成15年性同一性特例法が出されましたが、成人になって精神科を受診される際には性別を変更する目的の診断をうけるためだけに来院する方が多い。」などの実情を話されました。日本におけるガイドラインではGIDは「性同一性障害」から、今後は「性別違和」という表現になるだろう。また、GIDは医療で完結する問題ではなく、社会の理解と当事者の孤立を防ぐかかわりが重要である。」とお話しされました。


     14時からは女性から男性に性別変更をした当事者の方が、「自分らしく生きる」というテーマで経験談を話されました。20歳で母親にカミングアウトをした時に母親から“ごめんね”と謝られ、母親が理解してくれたことが忘れられなかったとのことでした。「今は結婚して妻もおり、自分らしく生活でき幸せです。」と話され、GIDで悩んでいる子供たちのサポートをする活動もされているとのことでした。会場では、実際の体験談に涙ぐまれる参加者もいました。


     その後、縄田先生と当事者を交えて質疑応答が行われ、たくさんの質問に丁寧に答えて頂きました。また、縄田先生からも生殖医療の現状について質問があった為、メンバーで日本不妊カウンセリング学会の村上理事長より生殖補助医療の現状の説明とGIDカップルの非配偶者間人工授精の選択に対する相談の現状などが話されました。


     この勉強会は、日本不妊カウンセリング学会からの承認補助事業として、助成金を受けて開催させて頂きました。そのお陰もあり、アクセスの良い博多駅の会議場を借りて勉強会を行うことができ、GIDの支援に興味をもつ医師・看護者・学校従事者等たくさんの方に参加して頂き、GIDと生殖医療について考えることのできるとても有意義な勉強会となりました。これからも日本不妊カウンセリング学会の学会員として様々なケースに適切に対応できるよう、研鑽を重ねて行きたいと思います。有難うございました。


公開講座レポート

2015年12月12日、新潟で「将来子どもが欲しいあなたへ」と題する公開講座が、本会の助成のもと開かれました。

『将来子どもが欲しいあなたへ』

日本不妊カウンセリング学会 承認補助事業
新潟大学大学院保険学研究科GSH研究実践センター 主催

  • プログラム
  • 13:00 開会のあいさつ
    13:10 基調講演
    「未来の妊娠に備えた健康な身体づくり」
    新潟大学男女共同参画推進室 林はるみ 准教授
    日本不妊カウンセリング学会-不妊カウンセラー(1999年度認定)
    13:40 特別講演
    「不妊状況にある男女の特性を配慮した医療のあり方」
    日本不妊カウンセリング学会 理事 佐藤孝道 医師
    14:30 質疑応答・ディスカッション
    14:55 閉会の挨拶
  • 内容
  •  2015年12月12日(土曜日)、午後1時から3時まで新潟大学医学部大学院保健学研究科GSH研究実践センター(GSHというのはGender Sensitive/Specific Health:性差を踏まえた/尊重した保健、医療という意味です、センター長:青木萩子(教授)が主催する公開講座「将来子どもが欲しいあなたへ」が新潟大学医学部保健学科の講義室で開催されました。この講演会は本学会から開催支援のための助成金を得て開催されています。ここでは、記者の目から見た開催の様子を報告します。


     新潟大学医学部保健学科は、新潟駅から車で15分ほど離れた場所にあって、どちらかというとむしろ日本海に近く、交通の便はよいとは言えない印象を持ちましたが、開会の午後1時に、会場はかなりの数で埋まるぐらい盛況でした。参加者数は94名に達しました。


     進行は、池上雅臣教授の司会のもとに進められ、開会の挨拶の後、新潟大学男女共同参画推進室 林はるみさんがまず「未来に備えた健康な身体づくり」について話をされました。林はるみさんは、新潟大学経営戦略本部男女参画推進室准教授で、かつ本学会の認定不妊カウンセラー(1999年度認定)です。林はるみさんは「精子・卵子に活力を与え、妊娠を維持しやすい」身体づくりが重要で、未来の妊娠に備えるために、どのような生活を送ればよいのかを考えてみたいと、話をはじめられました。不妊の原因として、晩婚化・晩産化をあげ、37歳、38歳から急速に妊娠率が下がり,それとは逆に流産率が増加することをまず報告されました。また性感染症を予防することの重要性から、コンドームを使うことの重要性が示されました。さらに、現代の偏った食事、IT、夜更かし、運動不足、極度のストレスも、妊娠力にはネガティブに働くことを指摘、妊娠しやすいからだにするためには、生活習慣を下記のような健康的なものにみなおすことが重要と話をされました。

    • 規則正しい生活
    • 十分な睡眠。朝日を浴びる目ざめ。
    • ブルーライトの影響の予防(寝る2時間前には、PC・スマホは見ない)
    • 正しい食生活(ビタミン・ミネラル、不飽和脂肪酸のオメガ3、亜鉛・鉄分をとる)
    • 適度な運動
    • 無理なダイエットはしない

     続いて特別講演として日本不妊カウンセリング学会理事の佐藤孝道さんが「不妊治療―なかなか結果が出ないのはどうして -医学的視点から」を話されました。最初に、不妊治療には、妊娠率、累積妊娠率、生児獲得率など色々な「確率」が出てきますが、納得のいく不妊治療を受けるためには、医師や不妊カウンセラーによく聞いて、その意味を正しく理解することが重要と話されました。数字には必ず分母と分子があるので、それぞれが何か理解する必要もあります。また、医師はしばしば一般論で話しますが、自身のことであるか(例えば自分が40歳なら、40歳に絞った話なのか、それともそのクリニックの一般的な数値なのか)を確認する必要も指摘されました。


     そして不妊原因として卵管因子、排卵因子、子宮内膜症、男性因子などをあげられました。なかでも「高年齢」と「性交回数が少ない」のが問題であると指摘されました。年齢の要因は女性では20歳台が出産には最適。育児も子どもと一緒にがんばって試行錯誤しながら育てる、そこから親も成長するのが大切で,その意味からも出産も育児も20歳台が最適であると強調されました。もちろん男性も年齢の影響をうけ、受精の年齢にプラス5歳ぐらいで、女性と同じ程度の年齢の影響が出るとの話をされました。そして人生にはやはり取り返しがつかないこともある、妊娠、出産や育児もその一つで、人生にも「消費期限」あることを理解して欲しいと話されました。


     さらに世界の中で日本は飛び抜けて「性交回数」が少ないこと、その性交回数が少ないことがもう一つの不妊の要因であることを指摘されました。性交回数が少ないことは決して自慢できることではなく、その背景には中高生に行われる「妊娠は怖いものだ」「避妊こそ大切」「性病は怖い病気」という「否定的」性教育に原因があるのではないかと指摘されました。「セックス」はもっと楽しいもので、性行為でオキシトシンが分泌され,オキシトシンは相手に対する関心を高める作用もある、「セックス」を通した会話は間違いなく夫婦間のコミュニケーションをより深いものにするし、普段から性行為があればEDにも,セックスレスにもなりにくい。性交回数が少なくなれば(禁欲期間が長くなれば)、精子DNAの断片化が進み妊娠しにくくなるだけではなく、自然流産も増加することが示されました。セックスの回数を増やすこと、それは夫婦の会話の促進力となり、妊娠への早道でもあることを強調されました。


     新潟で開催された公開講座は,たくさんの出席者があり、参加者にとっても有意義なものとなりました。

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